ベトナム旅行記1-治安やばい?カオスな街に圧倒された初めてのホーチミン-
数年前、ベトナムに行った時に書き溜めしていた日記をそのまま掲載します。本を読むような気分で読んでいただけたら幸いです。
ベトナム・ホーチミン旅行記1
旅先での出会いは、その旅の質を左右する。
良い人と出会えばその国は良い国だし、良い旅にもなる。不本意ながら逆も然り。
思い出すと旅の高揚感が戻ってくるような出会いは、どんな観光名所よりも価値がある。 したがって、私はこれまで「良くない旅」というのはしたことがない。今回も例外ではない。
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父が突然「ベトナムに行ってみたい」と言った。それまで家族で行った海外旅行はゼロである。「海外に行くなら私も行く」と、ベトナムが世界地図のどこに位置するのかも危うい知識だったがとにかく便乗した。それから思いがけぬ母の入院があり、回復を待ち、二年越し計画で実現したベトナム父娘旅行である。
ベトナムがどこにあるかもよく分かっていなかった私は、勿論ベトナムに行くのは初めてであり、ベトナム人と会ったことも多分一度もない。一ヶ月前から食道楽だ、エステ三昧だ、買い物天国だと、ガイドの写真ページばかり見て浮かれていた私だったが、旅行直前になりいきなり不安に襲われた。
「ベトナムの通貨は?」
「ベトナムの治安は?」
「何か知っておかないと危険な文化の違いは?」
例えば、アメリカで中指立てたら死ぬかもしれない、そういうことである。文化の違いは時に命の危険すら伴うものなのだ。
私はこれまで全く無視していたガイドブックの巻頭に戻り、ベトナムの通貨と物価について大体の知識をつけ、治安や衛生面、交通事情を調べた。
「スリやひったくりに注意」「詐欺に注意」「食中りに注意」「信号がないので道路は運転手とアイコンタクトをとりながら無理矢理渡る」
……。
何やらパワープレイが求められそうな国ということだけは伝わってきた。でも、大体が海外へ行く際に注意すべき最低限のことだ。日本が平和すぎるのだ。光栄なことに、どのガイドブックを見ても日本人は平和ボケ・戦闘能力ゼロ・免疫力ゼロの三拍子揃った最高級の鴨ねぎだと書いてある。
私はこの後さらにインターネットの口コミまで調べ、ベトナムという国、そしてベトナム人への警戒心を出発前にいっそう強くした。

いよいよ当日。
空港に降り立つと、熱気と湿気に包み込まれた。
そして、街に降り立つと、誰もが圧倒されるのが、バイクの数だ。
すごいとは聞いていたが想像できない量のバイクが想像できないスピードで流れてくる。まるでオートレースだ。信号がないとネットには書いてあったが、この交通量でさすがにそんなことは……あった。いや、信号はない。信号がないということがあった。(混乱)
無法地帯のオートレース場にTシャツ短パンで飛び込み横断する無謀さと言ったらない。数々のネット口コミがまた蘇り「これはマジで死ぬかもなあ」と思ったが、縁起が悪いので隣にいる父には黙っておく。
バイクの騒々しさ手伝い、街全体がカオスである。店が無秩序にぎゅうぎゅう詰めになり、ベトナム語の看板がうるさく立ち並ぶ。たまに近代的でおしゃれなブランドのビルもあるが、その隣に並ぶのは雑居ビルなので全体的にやはりカオスでしかない。良く言えば、賑やかで活気がある。
私たちはのっけからベトナムの熱気に圧倒されていた。蒸し暑い気候だけのせいではない、パワーがあるのだ。