魔法の鏡の正体が想像以上に不気味だった(ネタバレ注意)
この本のオリジナルストーリーかつ私が一番ぞっとしたのが、魔法の鏡について。女王はもともと鏡職人の家系の娘で、魔法の鏡は王様が「父親を思い出せるように」と気を利かして、結婚式の日に女王へプレゼントしたもの。このストーリーは完全なるオリジナルで原作グリム童話にもディズニー映画にもありませんね。
予想外の展開かつ不気味だったのは、魔法の鏡の正体が実の父親だったということ……。鏡を贈った王様は知らなかったのですが、女王と父親は不仲で、父はことあるごとに「お前は醜い娘だ」と罵って女王を育てたのです。だから、この贈り物は女王にとってありがたいどころか悲劇を生む品となります。大嫌いな人が鏡の中にいて自分に話しかけてくるなんて超不気味ですよね。。
でも、魔法の鏡には制約がありました。鏡には王国のことがなんでも分かるけれど、真実しか言えません。だから「鏡よ鏡……世界で一番美しいのはだれ?」と女王がたずね、それが真実なら答えは「あなたです」と返ってきます。どれだけ魔法の鏡(父親)が女王(娘)のことを憎んでいても、王国一美しければ美しいと言うしかないのです。女王は自分を「醜い娘」と言い続けた父親に「美しい」と言わせることにも満足感を覚えていきます。もとはと言えば父親が悪いのですが、女王は歪んだ復讐の味をしめてしまいました。
一方、白雪姫が成長して国一番の美女となった時「一番美しいのはあなたではなく、白雪姫です」と女王に伝える瞬間は、魔法の鏡がほくそ笑みます。この瞬間をずっと待っていたのでしょう。小説では魔法の鏡の感情表現も描かれているので、いやしい鏡にぞっとしました。
愛を失って立ち直れる人、立ち直れない人
心も外見も美しかった女王が、邪悪になっていく一番の原因は、愛する王様を失った悲しみによるものです。
白雪姫も愛する父親を失ったことになりますが、前向きに優しいまま成長します。継母である女王を幼いころから慕っています。女王も王様が亡くなるまでは、かわいらしい白雪姫のことを心から愛していました。でも、女王の方は、王様を失ったあと、悲しみで心を閉ざしてしまうのです。
やがて白雪姫が成長し、出会った王子さまと恋に落ちそうになった時から、女王は完全にダークサイドにおちていきます。自分の愛する王様は亡くなったのに、一方で自分よりも美しくなり愛する人まで見つけた義理娘……。嫉妬心でおかしくなっていきます。
つまり、白雪姫は立ち直ることができたけど、女王はできずに心を閉ざしてしまった。それだけ王様を深く愛していたし、繊細な心の持ち主だったとも言えます。
私の感想と総合評価
ハッピーエンドだが恐怖を感じさせるエンディング
ここからは読んだ方だけにしかわからないのですが、あのエンディングはどういう意味なのか……。
おそらく「女王は亡くなったあとに、やっと昔の心に改心した」という描き方だと思いますが、個人的には「めでたし」というより狂気を感じてしまいました。新たなる悲劇の始まりともとれるような……。タモリさんの世にも奇妙な物語のエンディングみたいな(笑) ちょっと読んでみないとわからない話なので、読んでみてください。
誰でもプリンセスやヴィランズになる可能性はある
白雪姫は幼いころから優しい王様と召使たち、そして優しい継母(女王)から無償の愛情をうけて育ってきました。恵まれていたからこそ、愛情を疑ったことなんてなく前向きな心を身につけていたのです。対する女王は、幼いころから辛い家庭環境で、やっと人生を変えてくれた唯一の愛する人を失ってしまった。そして部屋には女王を陥れようとする恐怖の鏡……。幼少期の環境で人格が形成されるんだとしたら、女王は不利な条件を抱えていたと言わざるをえません。
少し状況が違っていたら、女王も幸せな人生だったでしょう。優しく美しく誰からも愛される、しかも玉の輿のクイーン。女王がシンデレラストーリーを実現してディズニープリンセスになっていた可能性だってあったのです。逆を言うと、誰でも心の中にコンプレックスなどの火種はあるはずで、状況が違えば、誰でも「悪い女王」になってしまう可能性がある。そう感じました。
また読みたい度:☆☆☆☆
人にススメたい度:☆☆☆☆☆
ひとこと:小説としては物足りないけど、ダークファンタジーなおとぎ話で、ちょっと中毒性がある