映画『ノートルダムの鐘』はディズニーらしくない暗い世界観でマニアックな人気を集めていますが、実は原作はもっともっとダーク……。長〜い原作を読んだ著者が、原作のダークさについて分かりやすく解説します。
まず、原作がどんな世界観であるか。次に、ディズニー版と原作の違いと結末。最後に、原作で生き残るキャラクターと悲惨な最期を迎えるキャラクターについてお送りします。
今回は私が解説しよう
『ノートルダムの鐘』の本当はこわい原作とは?
ディズニー映画『ノートルダムの鐘』の原作は小説である。そして、作者は「レ・ミゼラブル」の作者と同じである。
原作はヴィクトル・ユーゴーの『ノートルダ・ド・パリ』
作者のヴィクトル・ユーゴーはフランスの大文豪。作品はどれも中世〜近世のフランスを反映したものが多い。
ユーゴーの作品「レ・ミゼラブル」を映画や本で見たことある人ならわかると思うが、カンタンに言うと、ユーゴーの作品はすっごく暗い。
私はどちらの原作も読んだけど、登場人物はほとんど亡くなる。バッドエンドばかりで、ディズニー的ハッピーエンドなんてもともとありえない世界観なのだ。ユーゴーの作品を読むと、当時のフランスがどれだけ暗かったか考えさせられる。
注意:『ノートルダムのせむし男』という表題は現在では使われない
原作は『ノートルダ・ド・パリ』だが、昔は『ノートルダムのせむし男』とも訳されていた。「せむし男」とは、カジモドのように骨格の曲がった人間のことを指す。差別的な意味があり、現在では控えられている。
さあこの段階で、原作が明るいファンタジー作品でないことはもうお察しだろう(笑)
『ノートルダムの鐘』ディズニー版と原作の違い
ディズニー版と原作で共通する基本設定はこの3つである!
- カジモドはフロローに育てられた
- カジモドとフロローがジプシーのエスメラルダに恋をしてしまう
- エスメラルダはフィーバスに惹かれる
ディズニー版と原作で異なるあらすじは?
上のように、基本設定はディズニーも原作を元にしている。
では、ディズニー映画はどこを変更したのかと言うと、悲惨なことほとんどである。そもそも原作の小説が悲惨すぎるのだ。
さあ、ディズニー映画と原作の違いをあげていこう。
カジモドとエスメラルダの友情
- ディズニー版:エスメラルダはカジモドと友情を育む
- 原作:カジモドのあまりの醜さにエスメラルダは目を背ける
原作では、エスメラルダとカジモドの間に友情は芽生えない。
むしろ、エスメラルダはカジモドを避けており、コミュニケーションらしいものすらあまりとれていないと言える。
カジモドにディズニー版のような「醜いけど純粋で優しい」といった美点も感じられなかった。
フィーバスとエスメラルダ、恋の行方
- ディズニー版:フィーバスとエスメラルダには愛が芽生え、ハッピーエンドを迎える
- 原作:エスメラルダはフィーバスと関係を持つが、フィーバスは婚約者がいる不誠実な男だった
ディズニー版のフィーバスは、カジモドの恋敵にせよ納得できる男に描かれている。しかし、原作のフィーバスは、なんと婚約者がいるのにエスメラルダにちょっかいを出したトンデモ男である。確か仕事もちゃらんぽらんで、どうしようもない奴だった。
それに惹かれるエスメラルダの方も恋にのぼせちゃった女の子という感じで、映画版と比べると知性が少ない。
フロローのこじらせている度の違い
- ディズニー版:エスメラルダのスカーフや髪の匂いを嗅いだりする(これもかなり気持ち悪いが)
- 原作:フロローはフィーバスとエスメラルダの逢引をストーカーし、二人がラブラブするであろうベッドの下で待ち伏せする。さらに嫉妬のあまりフィーバスを刺してしまう。
ディズニーファンの間で「もっとも気持ちの悪いディズニーヴィラン」と密かに人気のあるフロロー様。海外ではさらに人気のあるヴィランだ。
しかし、原作のフロローは気持ち悪いどころか、凶悪犯罪をしている。
フロローがエスメラルダを処刑する理由
- ディズニー版:エスメラルダが「魔女」であり、ジプシーは悪だから
- 原作:エスメラルダがフィーバスの命を狙ったから(本当の犯人はフロロー自身だが、エスメラルダに濡れ衣を着せる)
フロローは自分の犯罪を好きな女性になすりつけて、処刑しようとする。どこまでも歪んでいてハチャメチャに怖い悪役である。
原作の主人公はカジモドよりもフロローである
ディズニー版ではカジモドが主人公だが、原作とミュージカル版の主人公はむしろフロローである。
『ノートルダム・ド・パリ』はフロローという聖職者の禁じられた恋と葛藤を描いた物語なのだ。
一方で、原作にはディズニー版ではカットされているキャラクターもいて、真面目なフロローがどれだけ苦労してきたか同情できる要素もある。
原作『ノートルダ・ド・パリ』の登場人物たちの最期
ディズニー映画に比べるとキャラクターたちの善良さなどが見えない原作であるが、ユーゴー作品らしく、結末もそれぞれに悲惨である。
エスメラルダの最期:死刑
フィーバスの命を狙った罪を着せられたエスメラルダ。釈放の条件は、フロローの愛人になることだった。
フロローを拒んだエスメラルダは、原作ではそのまま処刑されてしまう。
ディズニー版でもフロローの恋人になるのを拒むのは一緒だが、エスメラルダはカジモドによって無事に助けられた。
フロローの最期:転落死
エスメラルダの処刑を大聖堂から眺めているところをカジモドに突き落とされ、転落する。
ディズニー版でも「ヴィランズは最期に高いところから落ちる」パターンだが、カジモドが直接手を下すわけではない。なんならディズニーのカジモドは、落ちそうになったフロローに一瞬手を差し伸べる。
原作で、育ての親を大聖堂から突き落とすカジモドもなかなかだが、大好きなエスメラルダの処刑を眺めているフロローはやっぱり根深く気持ち悪い。
カジモドの最期:臨終
なんとディズニーでは主役のカジモドすら原作では生き残れない。彼も亡くなるキャラクターの1人である。
カジモドの最期は、小説の最後にこのように語られる。
数年後、処刑場を掘り起こすと、白い服装をしていた女性エスメラルダと思われる白骨に、異様な骨格の男の白骨が寄り添っており、それらを引き離そうとすると、砕けて粉になってしまった。
カジモドはエスメラルダに寄り添って眠ったとのこと。
小説の美しい最後とも言われるが、両思いでもなく友情すら芽生えていない関係性を考えると、これもなかなか根深い気がしてしまう。
フィーバスの最後
原作のフィーバスは婚約者がいるのにエスメラルダにも手を出したとんでもない男であるが、なんとこのフィーバスだけがのうのうと生き残る。
ウソだと言ってくれ…。
フィーバスは物語中盤でフロローに襲われたが、実は生き延びていて、無事に婚約者のもとに帰る。その事件の濡れ衣でエスメラルダが処刑されたというのに…。
原作は誰も幸せにならない、フィーバス一人勝ちの不幸な物語
ディズニー映画にしてはダークな世界観と個性的なキャラクターを持つ『ノートルダムの鐘』。大人な雰囲気に美しい音楽と映像が華を添え、ファンの間でも人気の高いアニメ作品だ。
一方で、原作の『ノートルダム・ド・パリ』はとにかく悲惨であった。結末は、誰もハッピーエンドにならず、主要登場人物のほとんどが亡くなってしまう。
あえて言うなら、婚約者がいるのにエスメラルダを落とし、こっそり無事に逃げていたフィーバスの一人勝ちである。
しかし、原作を読みながらフィーバスの幸せを願う読者は一人もいないだろう(笑)
醜い卑屈な男を優しいヒーローに、若く軽薄な女性を正義感の強い魅力的なヒロインに、どうしようもないダメ男を理想の恋人に、そして、ただの凶悪犯をマニアック人気ナンバーワンのディズニーヴィランに仕立てたディズニー。
どちらが名作かは置いといて、この作品を子供も見るアニメーションにしようと考え、美しく愛される映画にしたことはディズニーの偉業である。
原作は悲しすぎて救いがなかったが、それでもディズニーの『ノートルダムの鐘』は大好きな映画の1つである。
ディズニー映画の感動は変わらなかったので、勇気のある人はこの大長編も読んでみてください…。
長くて暗くて読むのが大変だったぞ